毎度ごぶさたしております。
きのこシーズンも終わり仕事もバタバタしているので街路の地衣類に遊んでもらっている今日このごろです。
久しぶりに何度も読み返したい一冊に出会ったので、つたないですが本の紹介などしてみようと思います。
でもきのこじゃない!
きのこが好きでフィールドに出る方なら必ず遭遇したことがあるであろう「変形菌」のお話です。
しかし美しい写真集や図鑑とは一味違います。
変形菌と暮らす少年の、世にも不思議な「家族」との日々を綴った本なのです。
「世界は変形菌でいっぱいだ」 増井真那 (朝日出版社)

朝日出版社公式ページ
増井真那氏ツイッター
ますいゆうこ氏ツイッター(増井氏の母上)
美しい絵や写真の図鑑はもちろん良いです。しかし一歩引いて外から全体を眺めているので客観的で他人的。
この本では、5歳〜16歳までの著者の目線で、彼が共に暮らす変形菌について等身大の語り口で紹介してくれます。その”うちのコ感”がとても身近に感じて親近感が湧きます。
しかし著者はただ変形菌を愛でるだけの人ではなく研究者なので、実験もして研究もしています。研究などと聞くと身構えてしまいがちですが大丈夫。変形菌と暮らしている彼しか撮れない写真を惜しげもなく沢山見せてくれて、私たちがわかる言葉と考え方でわかりやすく順を追って話してくれます。
難しい話をしているのにぜんぜん難しくない。
変形菌について何も知らない方でも、生き物好きならぐんぐん引き込まれてしまうでしょう。
すごーく大雑把な内容
・まずは変形菌という生き物について。著者との出逢い。逃げ切れなかった母上。
・あんまり?全然?歩かないフィールドワークの楽しさ。
・メインは変形菌たちとの暮らしぶり。好みも性格も様々、うんちもするよ、でも繊細でキレイ好き。
・変形体で行っている実験について。一緒に暮らしてないとできません!
以前、菌類関係の合宿で知り合いの変形菌研究会の方に、飼育中の変形体たちを見せていただいたことがあります。やはり、なかなか家を空けられず、泊まりになる場合は連れて行っているとのことで、餌の試行錯誤など興味深いお話を聞かせてもらいました。タッパーを沢山いれたコンテナを2つも連れて参加されていました。増井さんの本を読んでも、とにかく手がかかり目が離せなくて、いくら変形菌が好きで情熱があっても家族(人間の!)の理解と協力が無ければ到底無理でしょう。そういう意味でも、大切な「家族」について書いた本であるように感じました。
私は仕事で必要なのと、落ち葉の下の小さいきのこや地衣類を見るのが好きなので、ルーペを常に持ち歩いています。ルーペ仲間や落ち葉ごそごそ組は歩みが極端に遅いので、基本的に最後尾かおおむね置いて行かれます。それでも移動速度が早すぎるのと目線の関係で変形菌の子実体はあまり見つけることができません。逆に大きめのきのこを見る歩き方だと変形体に遭遇することが多いです。一期一会のあの網目模様にいつも惹かれます。
kinoko-monoは実物に遭遇した感激やら嬉しさを形にしているようなので、出会わないことには作れません。
この本のおかげで、もう少し変形菌が身近な存在に思えてきました。これからもっと出会えそうな気がします。
どうやら私は「子実体派」ではなく「変形体派」だったようなのです。
最後に。
全編通して、とても丁寧な印象を受けました。時間をかけて大事に作った本なのだろうと伝わってきます。
変形菌という生き物を楽しく興味深く知るにも良いでしょう。
大人も子供も関係なく、疑問に思うってなんだろう、研究するってどういうことだろう、好きなことを見つけたり続けたりするのってどうしたらいいのかな?ということにアドバイスをくれる本でもあると思います。
しばらく読み返す本になりそうです。

カバーをとるとほっこりするよ。